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愛でもない青春でもない旅立たない

 今年度の三島賞受賞者、前田司郎さんのデビュー作。

 『燃えるスカートの少女』に続き、こちらもまたタイトルと表紙に惹かれて購入。特に、「愛でもない青春でもない旅立たない」というタイトルには枡野浩一の短歌に出会ったときのような強烈なインパクトを感じました()。手に取ったのがたまたま発売日の夕方だったのだけど、平積みの山が他の山に比べて格段低くなっていて、すでにかなり売れていた様子。

 ひとりの男子大学生の頭のなかを覗いているような気分になる小説で、目を丸くしたり苦い気持ちになったり共感したりしながら、とてもおもしろく読めました。タイトルで“青春ではない”と言い切っている割には、裏表紙の内容紹介だけ見ると“よくある青春もの”という印象を受ける。あれ?と思うけど、実際読んでいくと、やっぱり全然青春じゃない。

 大学に通っていて、男女3人でつるんでいて、学外にはちゃっかり彼女がいて、バイトはバイトでそこでも人間関係があって、悩んで、という主人公“僕”の状態は、傍から見れば充分青春しているように見えるけど、この小説を読み終えても「青春小説を読んだ!」という実感はあまりなくて、それはどうしてだろう。

 たぶん、たびたび差し込まれる、“僕”がみる夢の描写(ひとりの少女が登場する)がもたらす浮遊感とか、“僕”の彼女がある時から“僕”の性器のデッサンをし始めるようになったこと、そしてなぜそのような絵を描かなければならなくなったか“僕”にも描いてる彼女自身もわかっていないということとか、違和感が残る箇所があったから、表現としての不思議さにより意識がいったから、青春小説を読んでいるという実感が湧かなかったのではないかと思う。

 緊張感があり、予想のつかなさがあり、読みながら「ただの青春ものじゃ終わらないだろうな…」と構えていたら、やっぱり終わり方は強烈だった。なんだこれは!すごい!え?あ!おわり? あれ、わたしはいったい何を読んでたんだっけ、ってなった。いつの間にか「ひとりの男子大学生の頭のなかを覗いているような感覚」からも抜け出していた。そして、自分がどこに連れて行かれたんだかわからなくなるような小説がわたしは好きなんだなぁと思った。


 以下、うまいなあ、おもしろいなあ、と思った部分を二箇所ほど。


 僕の目の前を人々が通り過ぎていく。僕は改札を出て柱に寄りかかっている、渋谷は、人であふれていた。この中の一人が包丁を持って暴れだしたりしないって、なんで僕は安心しているんだ。この人の群れの中にバットを持って手当たり次第に人を殴りつける人間が混ざってないって、このうごめく人々が自分と同じ人間だって、なんで安心してるんだ。
 周りの音が聞こえなくなった。
 人の形をしたものものが歩いたり、微笑みあったりしている。テレビと同じ光景だ。確かテレビの中にいる人間はただの光の絵で、生きてるわけじゃないんだよな、この目の前でうろうろしている人間たちはなんなんだろう、光の絵とは違うのか、この人たちは生きていて、僕と同じ人間で、突然ナイフを振り回したりしないって誰が証明してくれるんだ。僕がこの人達を傷つけるようなことをしないって誰が決めたんだ。あんなに近いはずのまなみをすら、僕は傷つけた。なんでだ。愛しているものが、自分を傷つけるかどうか、同じ人間かどうかすらわからないなんて、どうしてだ。ああ、神様教えてください。
 「いやだ」
 神は答えた。
 (p.110)

  

 店員の中国人留学生がやって来た、名札にフナコシと書いてあるがどう考えてもフナコシじゃなかった。フナコシは不機嫌に僕らを見た。見回すと、人影まばらな店内だけど客のほとんどが僕らのテーブルを見ている。燃え盛るホルモンの火柱はたまに太陽のフレアのように数十センチ上まで上がり、僕と森本さんとフナコシの顔を照らす。
 (中略)フナコシが僕らに何か言っている。「でしょ」の部分しか聞き取れない、「エソホルシャダメデショ」「ソンエソホリュシャダマデショ」。
 僕は「すいません」と言った。フナコシが僕の目を見てゆっくり、多分こういうような事を言った。
 「ホルモンこんなにのっけちゃ駄目でしょ」
 フナコシが必死に、網の端をつかみ、七輪からはずしてフーフー息をかけると、やがて火は収まった。
 客たちは、食事を再開した、胸に「ホルモンをあんまりのっけちゃ駄目」と言う言葉を抱いて。
 (p.114-115)

 
 あと、「桃太郎」になぞらって語られるセックスがユニークでした。おもしろすぎて、生々しすぎるのでここには載せないけれど、へえ!こんな書き方があるのね!と、まあ、学んだところでどうするんだって話ですが、おもしろかったです。ただ、男目線で冷静に語られる性描写は、自分が女だってことを思い出して読んでしまうとちょっと辛い部分もあったけど、だけどそれはもう、仕方がないことなのでしょう。

 とてつもなく長い記事になってしまったけど、一風変わった青春小説(青春してない青春小説)(ていうかなんなんだ最後のあれは)を読みたい方にはお薦めの本です。 


  冒頭で、枡野さんの短歌に惹かれるようにして本書のタイトルに惹かれたと書きましたが、偶然にも、作者である前田司郎さんが主宰する劇団「五反田団」の舞台に、枡野さんが役者として出演されるそうです!まあ!繋がりがあったとは全然知らなかった!

 しかも、公演は今日が初日みたい。

 五反田団
 http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/

 枡野浩一公式blog 枡野書店
 「枡野浩一が出演する五反田団の公演について」

 http://masuno.de/blog/2009/09/05/post-115.php

 「こんな芝居に出て思いきり死んでみたい!」 だそうです。

  

読書 18:25 comments(5)
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- 18:25 -
COMMENT
なんでそんなにおもしろそうな本を見つけるのがうまいの?うらやましい。
きっとわたしもバイト先の書店で、「燃えるスカートの少女」と一緒に買います。
| しんかお | 2009/10/17 8:59 PM |
to:しんかおさん

うーん、執念かな。
時間が少しでもあると本屋さんに入って、
物欲しそうな顔してうろうろうだうだしてしまうので。
その代わり(?)自分に似合う洋服に出会うとか、そういう才能はないなあ。
ていうか洋服買いに来ててもいつの間にか本屋にいるっていう…

あ、両方とも、もし読んだら感想を聞かせて☆
しんかおさんがどう思ったか聞きたい!
| えみ | 2009/10/17 9:19 PM |
全く演劇をみないんだけど、かなーり昔に知り合いが出るという事で五反田団の芝居を見に行った事があったりする。

んで、芝居自体はアングラで内輪受けな感じの詰まらない物だったんだけど、前田さんが、その時とても印象に残った。上手いとかでもないしタダの金髪の兄ちゃんだったけど、華があったっていうのかなあ。

なんか、今の活躍を受けてかくと胡散臭いんだけど(笑)、出てきたのが不思議ではないんだよね。
| ナツ | 2009/10/18 7:18 AM |

……と思ったけど、調べてみたら記憶違いだったかも。
すいませんーm(_ _)m

客演などもありかなり意識混濁。ひゃー。
| ナツ | 2009/10/18 7:49 AM |
to:ナツさん
へえ…!って感心してたら、
えー記憶違いかもですかー あはー
わたしも演劇はさっぱりです。
前田さんのお名前も、五反田団のことも、
今回の本で初めて知りました。ひゃー。
あ、そういやこの本の舞台も五反田でした。
| えみ | 2009/10/18 1:09 PM |









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